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クルックリン

よく好きな映画は?などと聞かれると、僕は映画の題名ではなく、映画監督の名前を出してしまう。特に映画に詳しいわけでもないのだが、監督で映画を見ることが多い。好きな監督の多くは、脚本、制作、監督まで手掛けていることが多く、おまけに、本人が出演してしまうこともよくある。たいがいは、脇役なのだが、印象に残ってしまう脇役であったりする。そんなやりたがり、出たがりな好きな監督の1人にSpike Lee(スパイク・リー)という監督がいる。

 スパイク・リーは、ニューヨーク大映画学科の卒業制作に作った「ジョーズ・バーバーショップ」でロカルノ映画祭など各賞を受賞し、一躍名を広めた。そしてそのおかげで制作費を集めることに成功し、1986年、デビュー作となる「シーズ・ガッタ・ハヴ・イット」を制作した。

 その「シーズ・ガッタ・ハヴ・イット」が高い評価を受け、89年2作目の「スクール・デイズ」で、早くもハリウッド・デビューとなった。そして、3作目「ドゥー・ザ・ライト・シング」が大ヒット。

 スパイクリ-作品は、70年代初頭にヒットしたブラック・ムービーを彷佛とさせ、ブラック・ムービーが再注目されるきっかけとなった黒人映画監督の一人である。特徴として彼の作品には「ドゥー・ザ・ライト・シング」、「ジャングル・フィーバー」、「マルコムX」、「ゲット・オン・ザ・バス」など、人種差別やドラッグ問題など黒人社会が抱える問題をテーマとしたものが多いのだが、そんな中に異色作品として「クルックリン」がある。

 「クルックリン」は、70’sソウル・ミュージックをバックに、主人公の黒人少女の視点で、60年代末のニューヨーク州ブルックリンの生活を描いた映画なのであるが、特に、彼の他の映画で見られる社会的なメッセージはなく、その当時のブルックリンにあった子供のころの遊びなどの70’sのカルチャーをその時代の音楽と共に感じることができるのである。この時代の音楽は、時代との関わりも強く、お手軽に感じることのできる映画である。僕は、はじめてこの映画を見たときになぜだかテンションが上がった。きっと何も考えずにフラットな状態で見て楽しむことができるからであろうと思う。淡々としたストーリーが展開する中に人気番組「パートリッジ・ファミリー」や「ソウル・トレイン」に、バスケのニューヨーク・ニックス優勝などその時代を感じとれるものが盛り込まれている。また、シンナーを吸ってるラリったジャンキーや万引きなどそんなシーンもコミカルに描かれて、深く考えずに見て楽しむことができる。

 ただ、その一方でこの映画のみならず、彼の作品は、一部の黒人に黒人社会問題を題材の映画でさえもリアルでないと批判されたりもする。たしかにこの映画でもこの時代の音楽に深い関わりを持つ公民権運動やベトナム戦争については、あまり触れられてない。若干、あったりもするのだが特に気に留めるほどのシーンではない。

 よく比較されてしまうのが、「ボーイズン・ザ・フッド」のジョン・シングルトン監督であろう。この映画は、90年代のゲットーの地元の悪ガキやゲットーから這い上がろうとする優等生とのコミュニティーにギャングの抗争が絡んだりとゲットーの日常をリアルに描いたブラック・カルチャー・ムービーである。ちょうど同じ時期に注目された黒人監督だから比較されることも多いのだろうが、たしかに彼は、ゲットー出身で自己体験を元にして作られていることもあり、リアルはリアルである。ぼくは、「ボーイズン・ザ・フッド」も好きであるが、スパイク・リーと比較するのは、違うのではないかと思う。

 スパイク・リーはエンターテイメント性が強いのだ。そこが黒人のみならず、白人から多くの大衆にうけたのだろう。たしかに中流階級出身のニューヨーク大学まで出ているスパイク・リーは、ジョン・シングルトンと違いリアルさに欠けるかもしれないが、特にこの映画は、エンターテイメント性が強く、お手軽に楽しむことができるのだ。ただ、脚本は、彼と弟と妹によるもので、父親がミュージシャンに、母親が教師など実際の彼自身の思い出がもととなっていて、綺麗な部分だけを貼り合わせた印象もあるが、彼にとってはリアルであるのだろう。また、これが、「マルコムX」の次の作品なのだから、それは酷評されるのも無理はないが。

 この作品に最後の最後に見逃せない面白いシーンがある。70’sカルチャーとその当時の90’sカルチャーが絶妙にミックスされた彼のエンターテイナー性が存分に発揮されているシーンである。

 ラストのエンド・ロール近くで、当時の人気番組「ソウル・トレイン」が流れ、みんながファンキーなソウル・ミュージックに合わせて踊るシーンにフッとバック・ミュージックがCrooklyn Dodgersの”Crooklyn”へと変わるのだが、これは人気絶頂のA Tribe Called Questをプロデュースに、MCにSpecial ED、BuckshotにMaster Aceを迎え夢の共演とも言われたこのサントラ唯一のヒップ・ホップ・チューンである。70’sのダンスに90’sのミュージックがリズムから映像までもが違和感なく流れているのだ。これが実に絶妙なのである。

 心染み渡るというほどでも、深く考えさせられるという映画ではないが、とにかくブラック・カルチャーと音楽が楽しめる娯楽映画であると思う。ちなみに当時、この映画を見て、ベタな選曲にもかかわらず、2枚組にも及ぶサントラを買ってしまった。映画のままにテンションが上がるから、今でも旅行の車の中によく持っていくアイテムである。

 ぜひ、「クルックリン」に興味を持った方、特に期待をせずに、フラットな状態で見てください。見た後にきっとテンションが上がるでしょう。

text by 四丁目

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